「金色の嘘」

2002年11月26日
金色の嘘 【The golden bowl】 2000年英・米・仏

監督:ジェイムズ・アイヴォリー
原作:ヘンリー・ジェイムズ「金色の盃」
脚色:ルース・プラーヴァー・
製作:イスマイール・マーチャント

俳優: ユマ・サーマン(シャーロット)
    ケイト・ベッキンセール(マギー)
    ジェレミー・ノーザム(アメリーゴ公爵)
    ニック・ノルティ(アダム・ヴァーヴァー)
    アンジェリカ・ヒューストン(ファニー)


才色兼備のアメリカ人女性シャーロットは、かつて恋人同士だったが、お互いの貧しさが原因で別れたイタリア人貴族のアメリーゴ公爵から婚約したことを告げられる。そのお相手はアメリカ人大富豪アダム・ヴァーヴァーの愛娘マギーで、シャーロットの親友でもあった。しかし、当のマギーはふたりの過去を知るよりもなかった。結婚をとりもった社交界の重鎮ファニーが、よかれと思い隠していたからだ。
一方、美術蒐集家としても知られるヴァーヴァー氏は、シャーロットの美貌と知性に魅かれ、そして何より、結婚したことで父を孤独にしたと自責する娘を安心させるために、彼女にプロポーズする。まだアメリーゴへの想いを絶てないシャーロットには、好都合であった。こうしてシャーロットとアメリーゴは、義母と娘婿の関係になってしまった・・・・。
果たして、彼ら4人の運命は如何に?

<感想>
原作のタイトルでもある金色の盃。継ぎ目なしの水晶を、金箔で飾った美しいものだ。 はじめはマギーの結婚祝いの候補としてシャーロットが目をつけ、音で傷を見抜いたアメリーゴが却下する。
そして、6年後・・・マギーが父の誕生祝いに目をつけ、傷に気付かず喜んで買う---。 この美しい一見無傷に「見える」金色の盃は、「嘘」の証拠になりうる重要な小道具であると同時に、「結婚生活」を暗示しているのだ。

金箔でキズを覆うように、嘘で、傷ついた自尊心と心の隙間や疑念を覆う。
この作品には、さまざまな「嘘」が見え隠れする。
平和な結婚生活を守るため、お互いに対してだけではなく、自分の本心にも嘘をつく四人。
2人の結婚をとりもったファニーは、マギーを“汚れから守るため”アメリーゴとシャーロットは知り合いですらなかったと嘘をつく。

知らぬが花か、知っていれば防げた不幸だったか・・・・・・・・・・。
“嘘”は人の心を守ることができるのだろうか? 善意の嘘であれ、悪意の嘘であれ。

4人の嘘はさまざまだ。
アダムは、沈黙をもって、「嘘」とする。激しい感情を深く秘めながら、「確信のないことには、わしは動かんよ」 これは購入予定の美術品の真贋に関してのセリフだが、暗にシャーロットに言っているのは明白だ。

マギーは、父とシャーロットに嘘をつきとおすことで、父の心の平安を保とうと健気だ。
彼女のたったひとつの本音「キズのない幸せがほしいの」。
本音を話して初めて、アメリーゴのマギーへの愛は揺るぎ無いものとなった。

アダムとマギー親子の嘘は、お互いを傷つけないための嘘。
そして、自尊心を保つための嘘・・・。
その純粋さと哀しさは、親子の絆をよりいっそう深め、ラストの結末につながる重大な決意を、真実を語る必要なく、互いにさせることになる。

そして---
自らの保身のために嘘をつきつづけたシャーロットとアメリーゴは。
その汚れた嘘は、2人を結果的に引き裂くのだ。

自暴自棄になったシャーロットの最後の嘘と小さな本音は、真実を語る言葉よりも残酷にマギーの心を突き刺した。観客とアメリーゴだけが、マギーの気高さを知っているだけに、シャーロットが道化のようで哀れみを誘う・・・・。


虚飾に満ちた閉塞的な社交界の光と影、複雑に絡まる男女の心の機微を美しく哀しく描き出した名作といえよう。



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