「激流」
2002年12月5日『激流』【The River Wild】1994年・米
監督:カーティス・ハンソン
脚本:デニス・オニール
撮影:ロバート・エルスウィット
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
俳優:メリル・ストリープ(母ゲイル)
ケビン・ベーコン(ウェイド)
デビッド・ストラザーン(父トム)
ジョセフ・マッゼロ(息子ローク)
<ストーリー>
ゲイルは川下りの元ガイドで、現在は2人の子を育てながら聾唖学校の教師をしている。ワーカホリックの夫トムは、一昨年から息子ロークの誕生日の日にも仕事。離婚を考えながら、ゲイルは子供たちを連れて故郷に小旅行に。息子の誕生日を、川下りをしながら祝うつもりだった。祖父母に小さな娘を預け、出発寸前に駆けつけた
夫と、ゲイルの愛犬マギーの3人+1匹で、川上のスタート地点から出発する。
その川は、比較的穏やかな流れが途中まで有り、その先には3本
の川が合流する゛ガントレット”と名付けられた、川下り禁止の魔の激流域が有り、ゲイルは娘時代、無謀にもそこを下った経験が一度有ったが、死者が出た苦い思い出もあり、家族の出来た今では、
もうそんな命知らずなことをするつもりは毛頭無く、一家は”ガントレット”の手前で川下りを終え、祖父母達と合流して帰る予定だった。
スタート地点で、ウェイドという好青年のグループと息子の
ロークを介して知り合った一家は、諸々の事情から一緒に宿泊キャンプも共にしながら下ることになる。不在がちな父になつかないロークは、陽気なウエイドを兄のように慕い、ゲイルまでウエイドと楽しそうに釣りをするので、トムは面白くない。
だが、旅を続けるうちに、徐々に凶悪な本性を垣間見せるようになったウエイドを、トムだけでなくゲイルも不気味に感じ始め・・・。
実はウエイド達は逃走中の強盗だったのだ。追手の裏をかいた川下りによるカナダへの逃走計画は、゛ガントレット”をも下るという無謀なもので、ウエイドは家族を人質にし、激流下りのガイドを務めろと脅迫する・・!
<感想>
スリリングな展開で、ハラハラさせてくれる。
大自然の、絶壁に囲まれた激流は、ある意味で“密室”であり、助けはこないのだという緊迫感を否応無しに高める。娯楽大作として手に汗握る興奮を味わえる1本だ。
ドラマ面としては、腕力もなくいかにも頼りなさげな父親トムが、頭脳戦で犯人たちから家族を救おうと必死で頑張る姿がなかなかいい。まるでいうことをきかなかった妻の愛犬が、妻を救うために命がけなトムの命令を初めてきくところなど、若干
安っぽい気もしなくはないが、許せてしまう。
少々、はしょりすぎで気になったのは、あれだけわだかまっていた夫婦関係が、お互いの「一言」ですんなり解決してしまうところだろう。しかも、まだあの時点では、ウェイド達と一致団結して戦わねばならない状況ではなかったのだから、あの夫婦のわだかまりが解消に至るプロセスを、もっと丁寧に描いてほしかったように思う。
夫がワーカホリックで家庭崩壊という状況は、たくさんの映画で描かれているのだが、どの作品でも、夫が仕事にしか生き甲斐を見出せなくなった「理由」が存在しており、この作品のように、ただ“妻の期待に応えたかったから”という理由で、子供の誕生日を三年も無視するというのは設定に無理を感じる。しかも、妻からは再三、「もっと
家庭を顧みてほしい」と苦言を呈されているのだから、「ぼくは知らなかった」「私もわからなかった」であっさり解決してしまうという脚本は、あまりにアバウトで残念だ。
だが、この家族を救う「小道具」であり、家族を結ぶ「絆」でもある“手話”や“昔話”を効果的につかった夫トムの救出作戦は、物語に奥行きを出すのに効果的だったと思われる。
そして、各俳優の名演こそが、この作品のいちばんの魅力である。
メリル・ストリープは完璧主義で有名だが、この作品でも、体重を増やし、上腕を鍛え上げ、アウトドア派で心身ともに逞しいワイルドな肝っ玉母ちゃんを見事に演じきっている。ほとんどのシーンを、スタントなしでこなしたというから驚きだ。
ケヴィン・ベーコンは、「スリーパーズ」でも憎たらしい役だったが、今回もハマり役。陽気な好青年ぶりに微妙に見え隠れする残忍さも不気味で巧み。それが100%表に出たときの、まるで紙に水が染みていくようにジワジワ広がる凶悪な笑顔はトリハダものである。
一種の密室劇であるこの作品では、人数も背景も変わらないぶん、登場人物に相当な個性と演技力が要求される。息苦しいような緊張を、愛らしいジョゼフ・マッゼロ君と、レトリバー犬のマギーがいいバランスでガス抜きしている。
ドキドキハラハラしたいときに、おすすめしたい作品だ。いうまでもなく、大自然の風景は利己的な人間の愚かさを際立たせ
圧倒的に壮大で美しかった。
監督:カーティス・ハンソン
脚本:デニス・オニール
撮影:ロバート・エルスウィット
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
俳優:メリル・ストリープ(母ゲイル)
ケビン・ベーコン(ウェイド)
デビッド・ストラザーン(父トム)
ジョセフ・マッゼロ(息子ローク)
<ストーリー>
ゲイルは川下りの元ガイドで、現在は2人の子を育てながら聾唖学校の教師をしている。ワーカホリックの夫トムは、一昨年から息子ロークの誕生日の日にも仕事。離婚を考えながら、ゲイルは子供たちを連れて故郷に小旅行に。息子の誕生日を、川下りをしながら祝うつもりだった。祖父母に小さな娘を預け、出発寸前に駆けつけた
夫と、ゲイルの愛犬マギーの3人+1匹で、川上のスタート地点から出発する。
その川は、比較的穏やかな流れが途中まで有り、その先には3本
の川が合流する゛ガントレット”と名付けられた、川下り禁止の魔の激流域が有り、ゲイルは娘時代、無謀にもそこを下った経験が一度有ったが、死者が出た苦い思い出もあり、家族の出来た今では、
もうそんな命知らずなことをするつもりは毛頭無く、一家は”ガントレット”の手前で川下りを終え、祖父母達と合流して帰る予定だった。
スタート地点で、ウェイドという好青年のグループと息子の
ロークを介して知り合った一家は、諸々の事情から一緒に宿泊キャンプも共にしながら下ることになる。不在がちな父になつかないロークは、陽気なウエイドを兄のように慕い、ゲイルまでウエイドと楽しそうに釣りをするので、トムは面白くない。
だが、旅を続けるうちに、徐々に凶悪な本性を垣間見せるようになったウエイドを、トムだけでなくゲイルも不気味に感じ始め・・・。
実はウエイド達は逃走中の強盗だったのだ。追手の裏をかいた川下りによるカナダへの逃走計画は、゛ガントレット”をも下るという無謀なもので、ウエイドは家族を人質にし、激流下りのガイドを務めろと脅迫する・・!
<感想>
スリリングな展開で、ハラハラさせてくれる。
大自然の、絶壁に囲まれた激流は、ある意味で“密室”であり、助けはこないのだという緊迫感を否応無しに高める。娯楽大作として手に汗握る興奮を味わえる1本だ。
ドラマ面としては、腕力もなくいかにも頼りなさげな父親トムが、頭脳戦で犯人たちから家族を救おうと必死で頑張る姿がなかなかいい。まるでいうことをきかなかった妻の愛犬が、妻を救うために命がけなトムの命令を初めてきくところなど、若干
安っぽい気もしなくはないが、許せてしまう。
少々、はしょりすぎで気になったのは、あれだけわだかまっていた夫婦関係が、お互いの「一言」ですんなり解決してしまうところだろう。しかも、まだあの時点では、ウェイド達と一致団結して戦わねばならない状況ではなかったのだから、あの夫婦のわだかまりが解消に至るプロセスを、もっと丁寧に描いてほしかったように思う。
夫がワーカホリックで家庭崩壊という状況は、たくさんの映画で描かれているのだが、どの作品でも、夫が仕事にしか生き甲斐を見出せなくなった「理由」が存在しており、この作品のように、ただ“妻の期待に応えたかったから”という理由で、子供の誕生日を三年も無視するというのは設定に無理を感じる。しかも、妻からは再三、「もっと
家庭を顧みてほしい」と苦言を呈されているのだから、「ぼくは知らなかった」「私もわからなかった」であっさり解決してしまうという脚本は、あまりにアバウトで残念だ。
だが、この家族を救う「小道具」であり、家族を結ぶ「絆」でもある“手話”や“昔話”を効果的につかった夫トムの救出作戦は、物語に奥行きを出すのに効果的だったと思われる。
そして、各俳優の名演こそが、この作品のいちばんの魅力である。
メリル・ストリープは完璧主義で有名だが、この作品でも、体重を増やし、上腕を鍛え上げ、アウトドア派で心身ともに逞しいワイルドな肝っ玉母ちゃんを見事に演じきっている。ほとんどのシーンを、スタントなしでこなしたというから驚きだ。
ケヴィン・ベーコンは、「スリーパーズ」でも憎たらしい役だったが、今回もハマり役。陽気な好青年ぶりに微妙に見え隠れする残忍さも不気味で巧み。それが100%表に出たときの、まるで紙に水が染みていくようにジワジワ広がる凶悪な笑顔はトリハダものである。
一種の密室劇であるこの作品では、人数も背景も変わらないぶん、登場人物に相当な個性と演技力が要求される。息苦しいような緊張を、愛らしいジョゼフ・マッゼロ君と、レトリバー犬のマギーがいいバランスでガス抜きしている。
ドキドキハラハラしたいときに、おすすめしたい作品だ。いうまでもなく、大自然の風景は利己的な人間の愚かさを際立たせ
圧倒的に壮大で美しかった。
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