「スワロウテイル」

2002年12月11日
スワロウテイル 【Swallowtail Butterfly】1996年・日
監督 ・原作・脚本: 岩井俊二
撮影 :篠田昇
キャメラマン:金谷宏二
音楽: 小林武史 Swallowtail Butterfly〜あいのうた〜 YEN TOWN BAND

俳優:三上博史 (フェイホン)
    Chara (グリコ)
   伊藤歩(アゲハ)
   江口洋介(劉梁魁 リョウ・リャンキ)
   アンディ・ホイ(猫浮 マオフウ)
    渡部篤郎(狼浮 ラン)
   山口智子(春梅 シェンメイ)
   大塚寧々(レイコ)
   桃井かおり(週刊誌の記者、鈴木野)
   ミッキー・カーチス(阿片街の医者)

<ストーリー>
舞台は日本のどこかの無国籍都市"円都"(イェンタゥン)。世界一強い貨幣「円」に群がる貧しい移民(円盗 イェンタゥン)で溢れかえっている。娼婦の母をマフィアに殺された少女が、胸にアゲハ蝶のタトゥーのある娼婦グリコに拾われる。名を持たない円盗二世の彼女に「アゲハ」と名づけ、妹のように可愛がるグリコ。アゲハは、グリコに想いを寄せる上海出身のフェイホンらの住む青空旧貨商場で働き始めることに。だがある夜、グリコの客がまだ幼いアゲハを犯そうとし、暴れ出す。隣人の元黒人ボクサーが駆けつけ危機を救うも、力余ってこの客を死なせてしまう。はみ出した内臓から懐メロが録音された1本のカセット・テープが出てくる。ランが解析した結果、なんとこのテープの正体は、偽札製造に必要なデータと判明。これで薄汚い生活とはオサラバ、と狂喜乱舞するフェイホンらは堅気の商売をしようとライブハウスを始め、歌姫グリコはあっというまにスターダムに・・・・。
だが---このカセットテープの元々の所有者は、偽札偽造で成り上がって円都を牛耳るチャイニーズマフィアのドン、リョウ・リャンキだった・・・!

<感想>
まだ30代の岩井監督の刺激的な映像世界を堪能できる。戦後の日本と中国と東南アジアとパリの下町をMixしたような不思議で懐かしい架空の街「円都」の風景にまず魅了される。いろいろな巨匠たちに影響を受けているのだろうか。血みどろの美しさは例えばタランティーノ的であり、赤を女のメタファーとするところは中国のイーモウ監督的である。だが、作品は間違いなく岩井ワールドである。

邦画でありながら、日本語はほとんど話されず、中国語と英語がほとんどで、日本語すらブロークンなため、全篇字幕である。
言語的ディスコミニュケーション下における、真のコミュニケーションを描きだした意欲作である。

所詮は紙くずの“カネ”。だがそれなしには生きられず、食うに足る以上のカネは魔物だ。夢を買った男は夢に殺される---。なんと皮肉で哀しいことか。愛する男の運命に翻弄され人生を浮き沈みする女のなんと哀れなことか・・・。それでも、残された者達は、逞しく生き抜いてゆく。
ラスト近く、全てを灰に帰す炎。青空の下で燃え盛る炎には悲壮さは微塵もなく、明日へのエネルギーのように赤々と燃えていた。
アゲハの「忘れた」というセリフは印象的だった。

ラスト、アゲハとリャンキが橋の途中で再会するシーン。後ろ姿で「娼婦のグリコ」という台詞が鋭いナイフのようにズキっと刺さった。アゲハの胸の痛みが伝わる一言だ。
兄妹を再会させない監督の演出が、なかなか憎い。それはせめてものレクイエムなのかもしれない。

★心に残るセリフ (天国はあるの、という話題で)
「死んだ人の魂は空に上っていって、雲にぶつかると雨になって落っこっちゃうんだ」

「それで最後に行く場所を天国って言うなら・・・ここが天国ってわけかい」


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