『がんばれ、リアム』【Liam】2000年・英
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:ジミー・マクガヴァン
音楽:ジョン・マーフィー

俳優:アンソニー・ボロウズ(リアム)
  イアン・ハート(父)
  ミーガン・バーンズ(姉テレサ) 
  クレア・ハケット(母)
  デイヴィッド・ハート(兄コン)
  アン・リード(アバーナシー先生)
  ラッセル・ディクソン(ライアン神父)
  ジュリア・ディーキン(アギーおばさん)
  アンドリュー・ショフィールド(トムおじさん)

★ヴェネチア映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人賞)に姉テレサ役のミーガン・バーンズ

<ストーリー>
1930年代初頭のリバプール。とっても無口で内気だけど、優しくて元気な7歳の小学生リアム・サリヴァンは、カトリック教徒のイギリス家庭に育ち、造船所で働く生真面目でプライドの高い父、家計をきりもりする、気が強く敬虔な母、仕事について大人の仲間入りをしたばかりの兄のコン、そして造船所のオーナーであるユダヤ人の家でメイドとして働く10代なかばの姉テレサと仲良く暮らしていた。
もうじき、初懺悔と初聖体拝領が近づいており、学校では先生と神父さまが罪の話や地獄の話を怖い怖い声で教えてくれる毎日。うっかりお母さんのハダカを見ちゃったリアム。学校の絵画集で見たハダカの女のひとにはないヘンテコなものがお母さんのお股に。ショックをうけるリアムなのだった。“ザンゲ”しなくちゃいけないんだろうけど、緊張と恐怖でいつもの吃音がひどくなり神父さまに話せない。血まみれのキリスト像がコワい。でも、リアムは決して泣かないのだ。どんなときも、顔を真っ赤にしてがんばる健気なリアム。
町に不況の波が押し寄せ、父の働く造船所が閉鎖されてしまう。
人に頭が下げられない生粋の英国人の父は、なかなか新しい職にもありつけず、サリヴァン家はお通夜のような毎日。妻の怒りや、わずかなりとも稼いでくる上の子供たちを見るのが辛い父は、次第にリバプールの大多数を占める移民のアイルランド人やユダヤ人に自分の仕事を奪われていると恨みはじめ、あれほど蔑んでいたアカの集会に出入りするように・・・。
そして迎えたリアムの聖体拝領の日。
カトリック教徒にとっては一生に一度の晴れ舞台・・・厳粛な雰囲気の中、よそいきの服を着て緊張するリアム。しかし、神父の説教の最中に、父は突然立ち上がり、おおっぴらに教会を非難してしまう。近所だけでなく、敬虔なクリスチャンである家族の中でさえ孤立していく父は、過激なファシズム運動に参加することで、やり場のない怒りを解消しようとしていくのだが------。


<感想>
はじめはほのぼのした少年の物語かと思っていたが、リアムを取り巻く環境は階段を転げ落ちるように過酷なものになってゆく。
だが、『蝶の舌』のように、時代がすべて悪くて少年の心に一生消えない傷を残すような物語でもなく、貧乏極まっていても、『アンジェラの灰』のように崩壊した家族の中で苦しんで育つ物語でもない。
衝撃のラストには、ショックのあまり息が止まりそうになったが、
リアムはどこまでもリアムでいてくれる。ヒビだらけの家族という器が砕け散ってしまわないのは、リアムが接着剤になっているからなのだ。絆を取り持ち、まさにかすがいとなっているのだが、当のリアムのその自覚がないところがいい。なにせまだ7歳だ。
お父さんが好きだから、お父さんが苛々していたら、黙ってピタっと並んで座ってみる。お母さんが好きだから、お姉ちゃんも好きだから、なんだか悲しそうなときは、「あたま撫でてあげる」と言い、櫛で優しく丁寧に、髪をすいてあげる・・・。自分がしてほしいこと、してもらったら気持ちのいいこと。好きな人とくっついている幸せや、撫でてもらう幸せを、そのまま素直に返してあげる、
そんなリアムに、ささくれだらけの心もたとえその瞬間だけでも癒されるのだ。
時代背景には関係なく、崩壊寸前の家族を最後に繋ぎとめるのは
何なのか、それをこの作品は教えてくれるのだ。
小さな小さな小さな「思いやり」。

そういったヒューマンな部分の他に、この映画の輪郭を際立たせているのは宗教の二面性であろう。
どうにもならない苦しい時代に人々の心の支えになる、当然、そういうプラスの側面をキリスト教は持っている。平和で安穏とした時代よりも、精神的な救いを求める祈りは深いだろう。だが、リアムの父が言ってのけたように、教会と金は切っても切れないという負の側面もある。食費もないときに、クリスマスだ、聖体拝領だ、イースターだ、献金だと金のかかることが延々と1年中続き、ますます生活が苦しくなる矛盾。
聖体拝領の晴れ着を売っているのもそれを買うための金貸しも、質屋も、商売人はだいたいユダヤ人。カトリックの教会のために
イギリス人が頑張れば頑張るほど、儲かるのはユダヤ人・・・不幸にもこういう図式がこの時代、できあがっており、しだいにユダヤ人が迫害される原因に・・・。なんと皮肉なことだろう。
だからといってそれをバッサリと裁くことなぞ、人間には不可能だ。曖昧、人生はそういうものだ。ハリウッド映画なら、明確に
「悪人」をしたててしまうのだろうが、イギリス映画の、こういう
“リアルな曖昧さ”が好きだ。

音楽は、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』、『スナッチ』『ブロウ』などの人気作品を手がけた売れっ子作曲家のジョン・マーフィー。抑えのきいた曲で映画の雰囲気を
大切に表現している。

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