「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」 【Knockin’on Heaven’s Door】1999年・ドイツ
★1997年モスクワ映画祭最優秀主演男優賞(ティル・シュヴァイガー)
★1997年ドイツ映画賞最優秀助演男優賞(モーリッツ・ブライポトロイ)

監督・脚本:トーマス・ヤーン(初監督作品)
製作・脚本・主演:ティル・シュヴァイガー(マーティン)
装置・衣裳:モニカ・バウアート
俳優:ヤン・ヨーゼフ・リーファース(ルディ)
   モーリッツ・ブライプトロイ(ギャングの子分、アラブ人アブトゥル)
   ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ(ギャングの子分、大男ヘンク)
   フープ・シュターペル(アブトゥルとヘンクのボス、フランキー)
   ルトガー・ハウアー(大物ギャング、クルテッツ)
   
<ストーリー>
「天国じゃ、みんなが海の話をするんだぜ」
死期の迫ったふたりの重病患者、勝ち気で荒っぽいマーティン、小心者だが優しいルディ。末期患者用の病棟で同室になった彼らは、酔ったまま無一文にパジャマ姿で病院から抜け出し、水色のイカしたメルセデス・クーペを盗んでまだ見たことのない海をめざしてかっとばす。が、その車に拳銃とギャングの大金が積まれていたことから、ギャングからも警察からも追われるはめに。マーティンは余命数日、度重なる発作に苦しみながらも、人生最初で最後の冒険を最高の親友ルディと楽しむが・・・海を見るには追っ手を突破してオランダに抜けるしかない。
男二人の“最期の願い”は叶うのだろうか・・・・・。

<感想>

天国では皆が話す。
海のこと。
夕陽のこと。
あのバカでかい火の玉を
眺めているだけで素晴らしい。
海と溶け合うんだ。
ロウソクの光のように一つだけが残る。
心のなかに・・・。


ドイツの昔の映画は「芸術」にこだわり娯楽性を排除してきたという。『ラン・ローラ・ラン』などで日本でもお馴染みになりつつあるポスト・ニュー・ジャーマン・シネマのこの作品、これが初監督となったトーマス・ヤーン氏がいかにハリウッドの明るさと楽しさと刺激性に憧れていたかがよくわかる。
シャレた会話、タランティーノばりのスタイリッシュな銃撃戦、
シリアスと脳天気の境目を行きつ戻りつする笑いのセンス、実に
素晴らしい一流の娯楽作品に仕上がっている。

銃撃シーンや激しいカーチェイスがあれだけあって、巻きこんだ人間に1人の死人も出ず、血も流れない。ギャングの子分二人組の間抜けっぷりといい、警官たちのダメダメっぷりといい、なにしろ主役の二人が余命いくばくもない、という悲しいさだめなだけに、周囲のとんちんかんぶりが悲壮感を映画から払拭していて見事なバランス感覚だ。

ロード・ムービーにカッコイイ車は必要不可欠だが、ポイントになる空色のメルセデス・クーペと、ピンクのキャデラックが、いい。
野郎二人が乗るにはあまりにファンタジックなパステルカラーのこの二台は天国へと駆けて行く二人を運ぶのに相応しい。

ラストで流れる、タイトルにもなった「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」はロックの神様、ボブ・ディランが1973年に発表した名曲「天国への扉」だが、この作品ではドイツの新進気鋭のバンド「SELIG(ゼーリッヒ)」がこの映画のためにカバーしたバージョンを、フィルムをリアルタイムで見ながら演奏録音したそうだ。
魂を揺さぶるボーカルが、タイトルロールが終わるまで席を立たせない。実際、エンドロールの後にワンシーンあるので、是非、彼らの演奏を最後まで味わってほしい。

印象的なシーンはたくさんあるが、中でもやはり、冒頭のレモンだらけの病院の厨房でテキーラを飲みながら二人が語り合うシーンは秀逸。そして、中盤、トウモロコシ畑でのはちゃめちゃな銃撃戦&カーチェイスシーン。大真面目で大間抜けだから笑えるし、幻想的ですらある。
そして、ラスト直前、一瞬しか出演しないが大物俳優ルトガー・ハウアーの登場シーン。脚本に惚れこみ、新人監督の作品にカメオ出演したのだという。すごい存在感だ。そしてあまりにも意外なセリフに胸がすく。

貴方は、もし余命幾ばくもないとわかったら、最後に何がしたいですか?

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