「ザ・ダイバー」

2003年1月9日
ザ・ダイバー
【Men of Honor】2000年・米
監督:ジョージ・ティルマンJr.
脚本:スコット・マーシャル・スミス
音楽:マーク・アイシャム

俳優:ロバート・デ・ニーロ(ビリー・サンデー)
   キューバ・グッディング・Jr.(カール・ブラシア)
   シャーリズ・セロン(グウェン・サンデー)
   アーンジャニュー・エリス(ジョー・ブラシア)
   ハル・ホルブルック(ミスター・パピー)
   デビッド・コンラッド(ハンクス大佐)
   
<ストーリー>
1950〜60年代、まだアメリカ海軍に厳しい人種差別の壁があった。ケンタッキー州の貧しい小作農の家に育ったアフリカ系アメリカ人のカール・ブラシアは憧れの海軍に入隊するが、黒人はコックか雑用係、白人と一緒に海を泳ぐことも許されないという現実に直面する。だが、誰よりも早い泳ぎと肝のすわった性格を評価され、黒人として初めて、水難事故の際、救命活動に従事する甲板兵にとりたてられたカール。ある日ベテラン深海ダイバー、ビリー・サンデーが命を賭して仲間のダイバーを救出した姿に感銘をうけ、ダイバーになることを決意するのだった。2年にわたって100通以上の嘆願書を書き続けたカールは、ようやく黒人としてやはり
初めて、ダイバー養成所への入学を許可される。だが、法律上の差別が撤廃されたばかりの頃だ。そこでも人種差別の壁が立ちはだかる。仲間の嫌がらせにはさして動揺しないカールも、ただでさえ鬼教官、しかも過去の出来事ゆえに徹底して黒人を憎悪しているビリー・サンデーには苦しめられ続ける。サンデーは、仲間の命を救った際の無謀なダイブにより肺を損傷しダイバー生命を絶たれ、養成所の教官となっていたのだった・・・。

<コメント>
この作品は実話。海軍では伝説の人、カール・ブラシアの物語である。あまりに情熱的な彼の生き方にハラハラしどおしで、ラストは感動に熱い涙がこぼれた。
養成所を卒業するまでも壮絶だが、陰謀に負けず無事に卒業してダイバーの資格を得てめでたしめでたしか、と思ったら、それからが凄かった。未見の方のために、ストーリーの顛末についてはなるべく触れずにおこう。

こんなにも、信念に忠実で、「人生で絶対に失ってはいけないものは何か」を一時たりとも忘れない男を描いた作品も稀有だろう。
そして、この作品は只の“ド根性サクセスストーリー”で終わっていない。そこが評価すべき点だ。

実は、ビリー・サンデーは架空の人物である。脚本のスコット・マーシャル・スミスが、米軍の許可のもと、カール・ブラシア本人と
緻密な打合せをし、彼に関った複数の軍人や教官のエピソードを、ビリー・サンデーという架空の人物に纏め上げたものだそうだ。
この役を、ロバート・デ・ニーロがさすがの名演技でこなしている。人間の弱い面をすべて持っている男。人間的魅力に自信がないから黒人を見下すことで優越感を満たし、もう海に潜れない悲しみから酒に溺れ妻を悲しませる。この、陸で溺れている男が生まれ変っていく過程にリアリティを持たせたのは、デ・ニーロの演技力が
あったからこそであろう。≪行間の演技≫をこなせる役者だけが、
脚本の魅力を200%引出せるのである。

対して、若手だがアカデミー俳優のキューバ・グッディング・Jr.は「素材」そのものが既に素晴らしい。彼のデビュー作「ボーイズ’ン・ザ・フッド」から7作ほど観ているが、この作品での演技が最高だ。希望に燃える20代の青年から、艱難辛苦を舐め尽くした40才直前までのカールを、実に自然に演じている。養成所時代の、卑屈さのかけらもないキョトンとした快活で優しく素直な大きな瞳がとても印象的だが、負傷後〜ラストにかけての「無我夢中」「執念」としか形容しようのない強く鋭い瞳。そして、夢のために犠牲にしてきた家族への切ない想いのよぎる暗い瞳。いい俳優になった。

そして、この作品を彩る二人の女性。カールの妻とビリーの妻。
夢に向かって一直線の男を支える妻、というのはたくさんの伝記映画に登場するが(近年では『ビューティフル・マインド』など)、
この作品の女性陣は、どちらも、あまりにも自分のことしか眼中にない夫たちの元をいったん去る。でも、それぞれに答を見つけて戻ってくるのだ。それは、「こういう男だってわかってて結婚したはずよ」という心の動きであろう。諦めと、誇らしさの混じった複雑な心境を、シャーリズ・セロンも、新人アーンジャニュー・エリス
も巧みに演じている。

互いの勇気と情熱への尊敬の念。それによって反目しあっていた二人の男はいつしか深い絆で結ばれていくが、この水と油のような二人の共通点は勇気や情熱だけではなく、“名誉ある”退役しか選択肢を与えてくれない(ビリーの場合、与えてくれなかった)海軍上層部への反目だ。
ここが、実にドラマティックなのである。
「海軍の最も素晴らしい伝統は『名誉』です。」
そう、名誉ある退役ではなく、名誉ある存在であるために。
原題のMen of Honorは名誉を重んじる男たち、と考えていいだろう。勲章を持つ男達、ととると、ミスター・パピーやハンクス大佐も含まれ、相当辛辣なタイトルになる。

手に汗握るラストシーンをはじめ、印象に残るシーンは数あれど、序盤、カールの父親が息子に語るシーン(歴史はルールを変える者によって作られる、という意の言葉をかけ、俺のようにはなるな、戻ってくるな、と言い聞かせる)と、叩き割られたラジオ(父の形見)が直されてあり、そこにもともと書いてあったA S N F という頭文字の横に、A SON NEVER FORGETS(生涯忘れ得ぬ息子)という文字が書き足されていた、あのシーンは感動的だった。ビリーの父も貧乏な小作人だった。誇り高き海軍に入って出世するんだ、父を喜ばせるんだ・・・その想いは、ビリーもカールも同じだったはずである。だからこそ、通じ合えたのだろうと思う。

ビリー・サンデーが養成所で未来のダイバー達にぶつ演説
は印象的だ。マスター・ダイバーだった彼だからこその
言葉だ。

ネイビー・ダイバーは戦士ではない。
海難救助のエキスパートだ。
もし水中に失われてしまったものがあれば
それを探し出す。
もし海底に沈んでしまったものがあれば、
ソレを引き揚げる。
もし行く手を阻むものがあれば、
それを移動させる。
もし幸運ならば、
若くして海底200フィートの世界で死ぬだろう。
ヒーローになる道があるとすれば、
それが一番の近道だからだ。
まったく、俺にはわからない。
ネイビー・ダイバーになりたいと思うヤツの気持ちが。

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