「スパイ・ゲーム」

2003年1月11日
スパイ・ゲーム
【Spy Game】2001年・米
監督:トニー・スコット
原案・脚本:マイケル・フロスト・ベックナー
撮影:ダン・ミンデル
俳優;ロバート・レッドフォード
   ブラッド・ピット
   キャサリン・マコーマック(エリザベス)
   マリアンヌ・ジャン=バティスタ(グラディス)
   スティーヴン・ディレーン(ハーカー)
   ラリー・ブリッグマン(トロイ)
<ストーリー>
ベルリンの壁崩壊から2年後、1991年。CIAの作戦担当官として数々の激務をこなしてきたネイサン・ミュアーは引退の日を迎えようとしていた。その朝。自ら育て上げたがある事件をきっかけに袂を分った若手エージェントのトム・ビショップが単独行動の結果、中国に捕らえられ、24時間後には処刑されるというニュースが!祖国からも見捨てられた愛弟子ビショップを救出せねば・・・
CIA上層部と巧みに渡り合いつつ、危険な賭けに挑むミュアー。
これは、彼が“償い”のために自分に課した最後の孤独な任務だったのだ。中国の蘇州、ワシントンDC、香港、ベトナム、ベイルート。激動の時代と世界を物語は突っ走る。

<コメント>
アクション、サスペンス、ロマンス、ヒューマンの要素の詰まった、新旧を代表する二大ハリウッド男優による娯楽大作。
『クリムゾン・タイド』でも世代と性格の違う男二人の熱い対立を
描いたトニー・スコット監督。この作品でも、緊迫感あふれるカメラワーク、骨太なストーリー、そして爽快なラストで観客を酔わせてくれる。

見所は、やはり世代を超えた2人の名優の名演合戦、そして、ミュアーとビショップの“絆”であろう。
スパイとしての天賦の才能があるが、あまりに人間的過ぎる熱く優しい青年ビショップ、そんな彼をクールに導き、非情冷徹なスパイの世界の現実を叩きこんでいくが、心の底では息子のように慈しむミュアー。
畏敬の念でミュアーを見るも、未熟さ、若さゆえに、任務遂行の
ためなら民間人の犠牲も厭わない理不尽なスパイ稼業と、
それに引きこんだミュアーへの怒りをあらわにするビショップ。
苦悩を表に出さないミュアーと気持ちを隠せないピュアなビショップ。対照的だが、どこか似ている二人。任務のために、ビショップのような純な青年をこの稼業に誘いこんでしまった苦悩と哀愁を、
R・レッドフォードが渋くクールに演じていて、いい。

ブラピが他の作品ではまず見せない、本来の持ち味である゛ピュア”゛デリケート”な面を、相手役がR・レッドフォードだったから最大限に引出せたといえよう。『リバー・ランズ・スルー・イット』で監督としてブラピをハリウッドのスターダムに押し上げたのはレッドフォードだからだ。『リバー・・・』のブラピをご覧になったことのないかたには、是非、おすすめしたい。

監督がこの作品で描きたかったのは、インモラルな現代における、《人の倫》の意味かもしれない。大義名分の元ならば人間として超えてはいけない一線を軽々と超えてしまうスパイの世界。だが、スパイなしには成立しない国家、政治というもの。
これは、冷戦時代のアメリカを裏で守ってきた男の哀歌であり、一生背負わねばならない十字架の物語だ。償っても償いきれないことを男は知っているが、天はたった1つのチャンスをミュアーに与える。南の島での余生とひきかえにしても、このチャンスのほうがミュアーは欲しかったはずだ。

印象に残るシーンは、やはり屋上でのシーン。
「人間を野球カードみたいにやりとり?ゲームじゃないんだ!」と猛り狂うビショップに、ミュアーが辛さを押し隠して言い放つ。
「これはゲームだ。負けられない危険なゲームだ。」

そして、ベイルートで誕生日祝いを渡されたミュアーが、まるで息子からの贈り物のように相好を崩すシーン。ありきたりといえばそうなのだろうが、仲間同士でも信用を置かないCIAの面々ばかり見てくると、こういう血の通ったシーンにはホっとするものだ。

ミュアーのオフィスの壁の一部が焼けた星条旗。長い任務のどこかで記念に手にいれて大事にしてきたものなのだろう。引退に際して、忠実な秘書のグラディスに、あげるよ、私の思い出に、と言い残して去る。この国のために人生の大半を捧げてきたミュアーが、
最後の最後に国に裏切られ、自分も国を裏切る。端の焼け落ちた星条旗との決別。なかなか印象的だ。

ただ、ヒロインのキャサリン・マコーマックの人間的、女性的魅力が足りない。同じ十字架を背負う者同士、惹かれあったのはわかるのだが、彼女はテロリストだ。愛してはいけない女を愛してしまうスパイ、というのは昔からの常套のような気がして、そこに新鮮味がなくて残念だった。ビショップが中国に捕えられてしまう経緯もやや甘かったように思う。そのあたりの設定が違ったら、面白さは数段上がっただろう。


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