ラン・ローラ・ラン
【Lola Rennt】1998年・独
監督・脚本:トム・ティクヴァ
撮影:フランク・グリーベ
★サンダンス映画祭ワールドシネマ観客賞受賞
俳優:フランカ・ポテンテ(ローラ)
   モーリッツ・ブライプトロイ(マニ)
   ヘルベルト・クナウプ(パパ)
   アーミン・ローデ
   ニナ・ペトリ
   アーミン・ローデ
   ヨアヒム・クロール
   ハイノ・フェルヒ

<ストーリー>
夏のある日、ローラの部屋の電話が鳴る。恋人、マニからだ。
ヤクの取引で預かった大金をあろうことか地下鉄に置き忘れ、浮浪者に持って行かれてしまったというのだ。20分後にボスに金を渡す約束になっている。10万マルク(およそ500万円)持っていけなかったら問答無用、殺される。ローラはマニを、取引先にバイクで迎えに行く約束をしていたのだが、アクシデントで行けなかったのだ。「おまえのせいだ!愛の力で助けてあげるって言ってたじゃないか!20分で10万マルク作って持って来い!」交差点にある公衆電話でパニック状態のマニ。12時までにローラが来なかったら、スーパーに強盗に入るという。「待ってて、お金は何とか作るから!」と答え、受話器を投げ出したローラ。
ローラがベルリンの街を走って走って走りぬく!!!

<感想>
この作品は、未見の人はなるべく情報を持たずに観たほうが面白いので、ネタバレは極力避けよう。オチは大したことがないのだが、
ストーリーがどこまで続くのかはナイショ。

この映画が公開時に大評判となったのは、やはりポスト・ニュー・ジャーマン・シネマから、こんなにCoolな映像が届いた、という
ことにつきるだろう。アイデア自体は、アメリカではそうそう斬新なものではないのだが、ドイツでは画期的といえる。
劇中のテクノ・サウンド、アニメの挿入ややフィルムのコマ落し、TVの映像をサンプリングするMTVのようなタッチ等、《オシャレな映像作品》としては評価が高いようだ。

ストーリー面、登場人物の練りこみは、確かに甘い。ストーリー上の欠点は、やはり、ローラの大金の入手方法が安易過ぎること。
そして、20分しかないはずなのだが、走っている時間に比べて、
金を入手するための時間が長すぎる(あれだけのことをしたら、40分はかかるだろう)こと。これだけ切羽詰まった状況で、父の愛人のことを気にして問い詰めたり、脚本の練りが足りない。特に、
あと2分、などと切羽詰ってからローラがいろいろしすぎる。

ローラは、演じているフランカ・ポテンテが巧く、「普通のハイティーンの恋する女のコ」からずれない演技で通していていい。筋肉ムキムキのマラソン選手のような走り方では話がブチ壊しだからだ。だらしない服装に派手な髪、タバコはスパスパ吸う、酒もヤクもたぶん少しやっていそう、だけど、意地と根性だけは人一倍、そんなプチ不良娘が、愛する彼のために、とにかく必死に走りつづけるのだ。そこが、いい。
対して、よくわからないのはマニ。もともと、監督が描きたかったのが「走る女のコ」、ここから始まった企画なだけに、他の登場人物がいいかげん。彼女の物語なので、確かに他の人物はどうでもいいのだが(むしろ没個性に描いて正解)、恋人のマニだけは、「彼女が走る理由」なので、もっと「どういう魅力のある男なのか」を
例のベッドのシーンに割く時間があるなら、描いて欲しかったような気がする。まぁ、恋に理由はないのだから、とりあえずモーリッツ・ブライプトロイがハンサムくんというだけでもよしとしよう。

さて、ここからが本題。
監督は、「テーマは愛のためなら何でもできるということ」と明確に言いきっているが、それだけならこういう作りはしないだろう。

冒頭の

「我々はすべての探求を終えた後、初めて出発点を知る」T・S・エリオット
「試合の後とは、試合の前のことだ」S・ベルガー
に続いて、サッカーのキックオフのようなカットからスタートするこの映画。
人生はサッカーゲームと同じ。キックオフとタイムアップがあることだけは、どんな内容の試合でも決まっている。サッカーなら90分(映画もほぼ90分弱)。人生なら生れ落ちてから死ぬまで。その限定された時間のなかで、何ができるか、できないか、可能性も選択肢も無限だ。しかし、一瞬一瞬が、選択するチャンスなのである。サッカーなら、最後の数秒で勝敗が逆転することもよくあるし、ボールの角度がほんの少し違っただけでケガ人が出たり。人生なら、1秒違っただけで、あるいは1歩立つ位置が違っただけで、出遭う人が変ったり、何かを壊してしまったり誰かの命を救ったり・・・。だから人生は面白い。
そして、無限の可能性の中から、チョイスされるのはたった1つ。
その結果が「今」なのだ。その不思議と魅力についての映画でもあると思う。

原題のLola Renntは「ローラが走る」の意。アメリカでは、
゛Run Lola Run”「走れ、ローラよ走れ」に。邦題はこれをとっている。

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