ミリオンダラー・ホテル
【THE MILLION DOLLAR HOTEL】1999年独・米
★第50回ベルリン映画祭銀熊賞受賞
監督:ヴィム・ヴェンダース
原案:ボノ(U2)、ニコラス・クライン
製作総指揮:ウルリッヒ・フェルスベルグ
製作:ヴィム・ヴェンダース、ボノ(U2)、ニコラス・クライン
脚本:ニコラス・クライン

俳優:ジェレミー・デイヴィス(トムトム)
   ミラ・ジョヴォヴィッチ (エロイーズ)
   ジミー・スミッツ(ジェロニモ)
   ピーター・ストーメア(ディクシー)
   アマンダ・プラマー(ビビアン)
   グロリア・スチュアート(ジェシカ)
   メル・ギブソン(捜査官スキナー)
 
ティム・ロス(イジー):イジー役だけノンクレジットだが、99%ティムと思われる

<ストーリー>
L.A.の「ミリオンダラーホテル」には、治療費が払えず精神病院からも
見放された貧乏狂人や、社会からはみ出した者たちが住み着いていた。自分を酋長だと言うジェロニモ、ビートルズに曲を提供したのは自分だと思いこんでいるディクシー、読書好きな娼婦エロイーズ、彼女に憧れていて、ホテルの雑用で食いつなぐ、知的障害者の心優しき青年トムトムをはじめとする様々な人々・・・・。

ある日、トムトムの親友イジーがホテルの屋上から落ちて死亡。
イジーが大金持ちの息子だということが分かり、FBIの捜査官スキナーが犯人探しのために派遣されてやってくる。 自殺だと誰もが思っていたこの事件だが、メディアを牛耳るユダヤ人のイジーの父は、ユダヤ教徒が自殺はあり得ない(恥でもあるし、自殺だとマズいのだ)と言い張り、どうにかして「犯人」を探せ、とスキナーに命じたのだった。

メディア王の1人息子が場末のホテルで変死、というニュースは
世間を騒がせていた。ホテルの住人たちはそれを利用して一攫千金を狙う。イジーと同居していたジェロニモが描いた絵を、有名人であるイジーの描いた絵ということにし、それで大儲けして、腐った生活から抜け出そう、と目論んだのだ。

さて、犯人はみつからない。とりあえずジェロニモが捕まったが、証拠も何もない。実際は自殺だとスキナーも思っているが、何とかして犯人を仕立てなければならない状況に追いこまれていた・・・。

そんな中、ホテルの住人たちは、ジェロニモを救うためにも、犯人をでっちあげなければ、ということに。知的障害のあるトムトムなら、逮捕されても手荒な扱いはうけず、精神病院で一生安楽に暮らせるだろう、ということになった。優しいトムトムは、みんなが喜ぶなら、と無邪気に喜んで"自白”するのだが----------。

事態は急転する・・!

<感想>
「生きる理由」と、「無形のものの価値」を観客に囁きかける名作だ。エンドクレジットを眺めながら、はらはらと泣けた。
正気のリアルワールドは、証拠と理由に満ち満ちている。ミリオンダラー・ホテルの人々は、お金さえあれば"ここ”から出られると思っている。でも、無理なのだ。正気の世界は、「彼らが何物であるか」の証拠と存在する理由を持たない彼らを受け入れないから・・・。

ふと思う。存在する価値のない人間はいるのだろうか。イジーは
エロイーズを無価値なクズという。“イジーにとっては”きっとエロイーズは無価値なのだろう。だが、トムトムが愛を注いだことによって、エロイーズは価値ある者になったのだ。

エロイーズは尋ねる。「なぜあたしを好きなのか理由をきかせて」
きっと、エロイーズは、「理由」と「証拠」の氾濫する正気の世界で傷つき、ここに流れ着いたのだろう。
人を好きになることに理由なんてない。
でも、好きになったら、それが、「行動の理由」になるのだ。
この哀しさが、映画全篇を包むほの青い色彩の寂しさと重なる。

トムトムは、「理由」にしたがって4つの行動をおこした。
イジーのために。ホテルの仲間のために。そして、エロイーズのために。そして、きっとうまれて初めて、「自分のために」。理由をもった者は、もう“ミリオンダラー・ホテルの住人”ではいられない。

「飛び降りたあと、ふと思ったんだ。人生はすばらしい、人生は最高だって」

ほんの2分程度しかカメラにうつらないイジー役、私はティム・ロスだと確信しているが、情報があったら教えていただきたい。
たった数行のセリフであれほどの存在感・・・。嫌悪と哀愁。驚きだ。

メル・ギブソンの演じるスキナー捜査官の「過去」。語られるのは
ほんの1シーンだが、首のギプスが、スキナーが「差別される側」の人間であったことを観客に忘れさせない。
トムトムを理解していた二人がやりきれない思いに血まみれの手で
互いを抱擁するシーンに胸が詰まった。スキナーは「事件の真相」は知らないが、「トムトムの真実」はきっと理解していたから・・・。

ヴィム・ヴェンダースが、友人のU2のボノと組んで製作した本作、もちろん、U2の曲も多く使われている。映像美と音楽の融合も、またみどころである。

主演のジェレミー・デイヴィスの繊細な演技、ヒロイン、ミラ・ジョヴォヴィッチの貧相だがしなやかな体、醒めた瞳の奥に見え隠れする孤独、口元に溢れる愛情、実に素晴らしい。

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