「パリ、デキサス」

2003年1月31日
パリ、テキサス
【Paris, Texas】1984年・独=仏
★1984年、カンヌ映画祭グランプリ受賞
監督 ヴィム・ヴェンダース
脚本 サム・シェパード
音楽 ライ・クーダー
出演 ハリー・ディーン・スタントン (トラヴィス)
   ディーン・ストックウェル(弟、ウォルト)
ナスターシャ・キンスキー(ジェーン)
ハンター・カースン (息子、ハンター)
  オーロール・クレマン(アン)
  トム・ファレル(橋の上で叫ぶ男)
<ストーリー>
4年間行方不明だった中年男、トラヴィスがテキサスの砂漠で発見される。彼を迎えにきた弟ウォルトは、廃人の様に口も利かず食事もせず眠りもしない兄をロサンゼルスの自宅にどうにかこうにか連れて帰った。

トラヴィスは8才になっていた息子ハンターと再会したことで、記憶を次第に取り戻し、息子との心の距離を埋めようと努力し始める。トラヴィスは、ハンターの育ての親である弟の妻アンから、妻ジェーンが毎月、特定の銀行からハンターの口座に送金している
ことを聞き、消息を絶っていた彼女の行方を探す旅に出る。ハンターもまた、ホームビデオでしか見たことのない実の母に逢うため、父と共に旅に出るのだった・・・・。

<感想>
敬愛するヴィム・ヴェンダース監督と、サム・シェパードによる脚本。これで名作にならないはずがない。何度となく観たが、観るたびに深く味わえる作品である。

風景と音楽(ライ・クーダ、スライド・ギターの哀感のある響)
で物語を描いた、これぞ映画の中の映画といえよう。

長い作品だが、テキサスからロスへ、ロスから再びテキサスへ、
この“物理的な距離と移動時間”が、どうしても物語に必要なのだ。飛行機で飛ばないのにはそこに理由がある。
トラヴィスは、何かを探して一直線に歩く男だ。点在する記憶を辿って、一直線に繋げて完成させたいのだ。
それを象徴するシーンがある。
弟の家で、朝、トラヴィスはウォルトとアンとハンターの靴を
磨いて干し、一直線にピッタリとくっつけて並べる。
一足、家族が靴を取って行くと、隙間をすぐに詰めて、また綺麗に
並べなおす・・・・。自分の途切れた心をつなげようとするかのように。青い空の下に並んだ靴のこのシーン、忘れられない場面だ。

息子と道を挟んで歩くシーンも、この映画のファンなら目に焼き付いていることだろう。心の距離を道に託して描くセンスに脱帽だ。

ジェーンとトラヴィスの愛は、愛し合っているのに、一方通行。
なんと不思議なことか。
二人はお互いを求めてやまないのに、二人の「欲しい愛の形」が
違ったのだ・・・。そして互いを失う。

二人は、鏡やフィルムを通じてしかコミュニケーションできない。
監督がさせない。
最初はあのホームビデオの8mm。ジェーンは嬉しそうに笑ってこっちを見ている。過去のビデオの中で微笑む彼女を、トラヴィスは
スクリーンで見る。

そして、ラストの「覗き部屋」。
あの部屋の構造そのものが、二人の「エゴ」そのものなのだ・・。
マジックミラーで隔てられた二人。
暗い方から明るい方を見ることはできても、逆から見るとガラスは鏡になっていて暗い方を見ることはできない。そこに映るのは自分の姿だけ。

男と女の間には砂漠が広がっているのだろう。わかったような気がしても、それは蜃気楼なのかもしれない。

これは、“言葉”について語った作品でもあると、思っている。
言わなくてもわかるのが真実の愛だろうか?
話さなければ伝わらないことだってある。伝えようとしなければ、
言葉は自分の中で淀んで形を失い、相手に伝わらないまま消滅する。
トラヴィスが、「言葉」を取り戻す旅だったともいえるだろう・・・
映画の中で、「大切な言葉」は肉声で相手に伝えられることはない。電話。トランシーバー。テープレコーダー。
何かを媒体としなければ魂をさらけ出せない、弱さが哀しい・・・。

タイトルのParis, Texas は、もちろん、ストーリーに出てくる
トラヴィスの土地、テキサス州のパリのことだが、家族揃って住めたらいいのに・・・という叶わない憧れの象徴であり、そして、
トラヴィスの父親が妻をパリ(フランスの)の女だと妄想していた
(現実から目を背け)ことも暗示している。
蜃気楼、妄想・・・それらを暗示するタイトルだ。

ナスターシャ・キンスキーの美しさとともに、永遠に心に残る作品である。

☆印象的なセリフ
ハンター「死んだって感じる?」
トラヴィス「どういうことだ?」
ハンター「その人が話したり歩いたりしてたのを覚えてる?
それでも、その人が死んだって感じる?」
トラヴィス「ああ・・・時々はな。死んだことがわかって
いるから。」
ハンター「ぼくは、一度も感じなかった。パパはどこかで話したり、歩いたりしてると感じてた。
・・・・ママのことも、そう感じてる。」


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