「活きる」

2003年2月9日
活きる
【Huozhe(活着)】  1994年香港=中国
★1994年第47回カンヌ映画祭審査委特別大賞
     〃       最優秀男優賞受賞(グォ・ロウ)
★第48回英国アカデミ賞ベスト外国語作品賞
監督:チャン・イーモウ
脚本:ユイ・ホア/ルー・ウェイ
原作:ユイ・ホア(余華)「活きる」角川書店
俳優:グォ・ロウ(福貴 フークイ)
   コン・リー(家珍 チアチェン)
   ニウ・ベン(町長) 
   グオ・タオ(春生)
   ジアン・ウー(ニ喜)

<ストーリー>
物語は1940年代の中国から始まる。福貴は町でも有数の資産家の若旦那だったが、バクチにのめり込むあまり、ついに家屋敷が人手に
渡ってしまった。妻の家珍は子どもたちを連れて実家に帰ってしまい、福貴は得意の影絵芝居で細々と生計を立て始める。やがて、逃げた妻子も戻り、老母と一家揃ってささやかだが幸せな日々を送っていた。

フークイは国民党軍の一員として無理矢理内戦に駆り出され、共産党軍の捕虜になってしまうが、その状況を救ったのは影絵芝居の能力だった。ようやく無事に故郷の町に戻った福貴は、家珍と2人の子ども、娘のフォンシア(鳳霞)・息子のヨウチン(有慶)と再会する。
再び生きて再会できた喜びを噛み締める一家だったが、時代は共産党が勝利し、毛沢東の時代は躍進政策に突入、眠る暇もなく国のために鉄を造り続ける日々がはじまり、子供たちも身を粉にして働かねばならなかった。そして最初の悲劇は起こる。

1950年代、1960年代、そして中国は激動の文化大革命時代へ・・・・・・・
時代に翻弄され、次々に家族を失いながらも、泣いて笑って逞しく日々を生き抜いていく夫婦の姿を描いた大作である。

<参考>

中国の近現代史の知識を多少なりとも持ってから鑑賞すると、この作品が中国では完成当時は公開を禁止された理由を理解する助けになるかもしれない。時代と、福貴、家珍夫婦に起こった事件との関りをまとめてみた。
中国当局は作品中の中国現代史の描かれ方に反発、さらにチャン・イーモウ監督が各国の映画祭に本作を売り込んでいたことにも怒りを顕わにし、監督に公式な謝罪文を提出させた上、2年間映画製作を禁止した。その後も、本作は中国本土では上映されていない。

日本でも、中国の顔色をうかがって、2002年まで公開を躊躇した。

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●1945年、日本の敗戦後、共産党と国民党が雌雄を決する戦い
を繰り広げ、共産党が勝利。(福貴が巻き込まれた戦争はこれ)

国民党、共産党いずれも、伝統文化を重んじていた。

→福貴が影絵芝居で、共産党に気に入られ、「革命運動に協力した」とお墨付きの証書をもらえたのは、このため。

●1950年代前半
建国間もない混乱期を経て、政治的にも経済的にも徐々に安定期に入る。毛沢東全盛期。

→福貴が家族と、国に与えられたお湯配りの仕事でささやかに幸せに暮らしていた時期がここにあたる。

●1956年〜1966年頃
毛沢東は理想とする社会主義のために集団化を推進する人民公社の成立と大躍進政策をとるが失敗。実際は、鉄は実際に用いることが出来ない屑鉄を大量に生み出し、他方、食料については、鉄の生産にあけくれていたことと、自然災害なども加えて、なんと、2000万人の餓死者を出す悲惨な結果に終わった。

→この時期に、息子を無理な製鉄活動で亡くす

***********躍進政策********************
人海戦術で大量製鉄をし
、農村を人民公社に移行させ、食料の大増
産と工業化を一気に進めてしまおうという計画。
イギリスに5年で追いつき10年で追い越せ、
が合言葉だった。
***************************************


●1966年〜
毛沢東に代わって劉少奇が調整政策をとって回復を目指す。しかし、それを修正主義と受け止めた毛沢東は、夫人・江青ら「四人組」主導による階級闘争を奨励し、時代は文化大革命へと突入す
る。社会主義運動、文芸批判が始まる。

→福貴が町長に、影絵芝居の道具を焼き払って証拠を隠滅
するようにすすめられた。町長、春生は、走資派として投獄される。権威主義の撲滅のせいで病院から教授クラスの医者が
消え、娘が犠牲に・・・・。

******文化大革命****************************
スターリンの死後、ソ連のフルシチョフがアメリカ
と歩み寄りを始めたためそれを共産主義の背信行為
だと毛沢東が批判した、中ソ論争が背景にある。
劉少奇と?小平の二人は、共産党一党支配などの
現状では経済的に中国の未来はないと考え、資本主
義経済のとり入れをしようとした。
怒った毛沢東が彼らを走資派とよんで殺そうとし
た一連の内紛を、文革という。
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歴史には詳しくないので、この程度の知識しかありませんが、鑑賞時の助けになればと思い、感想の前に付け加えました。


<感想>
人間すべて塞翁が馬を地でいく活力に満ちた物語だ。
涙が枯れるほど悲しいけど、不幸じゃない。
やり場のない怒りに震えるけれど、不幸じゃない。
言葉にならないほど辛いけど、不幸じゃない。
貧しいけど、不幸じゃない・・・・・。
明日は今日よりきっといい。
心臓を動かし続けるだけのために生き続けるのではなく、彼らは
次の世代へバトンを渡し続けるために、活き抜いていくのだ。

映像の魔術師といわれるイーモウ監督だが、本作では、とことん正攻法で、歴史という荒波に翻弄され木の葉のように揺さぶられる一家を描くが、そこに深刻さはなく、持ち味であるユーモアは決して忘れない。

あんな時代もあったね・・・と泣き笑いする夫婦が、幼い孫と、愛らしいヒヨコに希望と幸せを見出すラストシーンは、温かい涙を誘う。

中国は大戦後だけを取り上げても、数年ごとに激変を繰り返してきた国である。国民党と共産党との内戦、文化大革命など、国民はその時その時によって唐突に国にとっての功労者になって賞賛されたり、反逆罪で処刑されたりするのである。臨機応変でないと生き残れない。主人公の一家は、必死に社会情勢に敏感に追いつき、生き抜こうとする。運命に逆らわず、流れに身を任せ、いつか来る明るい未来のために、今日という日を精一杯に生きる。この姿が、胸を打たないはずがない。
共産党政府の過ちを明白に描きだして観客に衝撃を与えるが、主人公一家は、国が悪い、と荒れたりはしない。この国でこの時代に生きることは変えられないのだ。その強さに圧倒される。

生きていれば、きっといいことがあるよ・・・そう語りかける慈愛に満ちたメッセージをこの映画は私たちに与えてくれるのだ。

そして、生きることは、自分のためだけではないことも。
春生に「生きなさい!」と叫ぶ家珍に声は重く胸に響いた。

今、つらいことがあって何もかも嫌になってしまっている人にこそ、是非、おすすめしたい名作だ。


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